本研究は英語の語順に関して、古英語から現代英語に至るまでの歴史的発達のメカニズムの解明を目的とする。特に古英語における語順の決定要因を、まず、共時的に分析し、これにより、通時的調査研究、すなわち語順変化のメカニズムの解明に発展させるものである。 Kohonenは古英語の目的語の位置決定には、‘givenness'(情報度)および‘heaviness'(構成要素の長さ)が要因であるとした。英語の語順変化は屈折の消失が原因とされる。Vennemannは「曖昧さを避ける原理」が原因とした。 しかし、語順の多くは、主語が目的語に先行し、曖昧さはほとんど生じない。また主語の多くが‘given'を伝える調査結果は、‘end-focus'原理の作用の高い可能性を示している。したがって‘new'で‘heavier'な目的語がまず動詞の右方に移動、一方‘given'で‘1ighter'な目的語が動詞の前の位置を保つ傾向が、各年代の様々な作品を調査することによって実証されれば、‘givenness'及び‘heaviness'がSOVからSVOへの語順変化に影響を与えたと言える。 今年度の研究ではChafeの‘givenness'がKohonenが採用した2分法よりも効果的であり、しばしば指摘される‘givenness'の決定に関する曖昧性を避けることが可能であることを示し、語順変化研究の一環として、後期古英語散文「アポロニウス物語」における目的語の位置決定要因について‘givenness'および‘heaviness'の影響を分析した。 その結果、ほとんどすべての節において二つの要因が作用していることまた、‘givenness'に比べ‘heaviness'がより強く影響していることが、判明した。 今後は、近・現代英語に至るまでのさまざまな作品を分析し、英語における語順に関する歴史的発達のメカニズムについて総括する予定である。
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