本研究において、筆者は与那国方言、波照間方言、西表方言、石垣方言、宮古方言など、いわゆる南琉球方言のテンス・アスペクトの体系について調査・分析を行った。さらに、北琉球方言の中心となる首里方言、さらには伊江島方言も調査・分析し、対照研究を行った。その結果、アスペクトにおいて、基本相・進行相・継続相に分けた場合、伊江島方言では、進行相に進行相1 nusun、進行相2 undiaits'unの2つの形式が観察された。しかし、南琉球方言ではこの形式を所有していないことが確認できた。また、進行相と継続相の対立の仕方は、南琉球方言においても、関西、九州方言などに見られる、シヨルとシトルの対立に類似していることも確認された。特筆すべきは、与那国方言の継続相 dumiduburuの成立の仕方が、動詞の連用形「dumi(読み)」に「du(ぞ)」と「bun(居る)」の連体形「buru」が複合されたもので、係助詞の「du(ぞ)」を用いたものであることが確認できた。他の方言では、すべて「ti(て)」を複合させた形式を用いていることが分かった。今後の課題としては、北琉球方言のテンス・アスペクトの調査を実施し、全琉球のテンス・アスペクトの体系的調査・分析を行い、琉球方言のテンス・アスペクトに関する認知のあり方について、認知意味論的手法を用いて解明して行くことが考えられる。さらには、プロトタイプを抽出し、琉球方言におけるテンス・アスペクト体系の古層を明らかにし、古代日本語のテンス・アスペクトとの比較研究を行う予定である。
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