本研究は、1977年から94年の間に国会に提出された全議員立法の提出政党、反対政党、政策類型、審議経過、政策形成に及ぼした影響について分析し、議員立法が立法過程において公式の議題設定機能を持つことを実証したものである。分析の手法としては、国会の公式資料である『調査』(衆議院の動き)、『国会会議録』や新聞記事(日経ニューステレコンを利用)をデータソースとして、合計915件の議員立法のデータベースを作成し、計量分析を行うとともに、文献サーベイやヒアリングを行うことによって、定性的な分析を加えた。分析の結果、政府立法を補完する限定的な役割しか有しないと考えられてきた通説の議員立法形式説とは異なる事例が示された。すなわち、議員立法は、政府に対抗し、世論に訴えるための単なるアピールではなく、世論や利益集団の多元的な利害を反映し、政党が利益集約・表出機能を行使するための重要な政策手段であるといえる。その中で、自民党主導の議員立法の政策の重点は、利益誘導型の分配的政策や業界保護のための競争規制的政策にあるのに対して、野党の場合には、保護的規制政策や再分配的政策に重点があるという対照がデータで明確になった。特に、こうした野党提出の議員立法は、労働者保護や環境保全、社会保障、人権保障などの政策分野で、政府の政策形成の引き金や呼び水となって政府の公式の審議事項に一定のアジェンダを設定する機能を持った。このことは、政権交代による野党の連立政権への参加でより顕著になった。こうした事例から、本研究は、従来の議員立法形式説を反証し、議員立法が少数者や弱者の権利を創造する機能を持ち、公共政策の形成に一定の影響力を持つことを実証した。そして、議員立法が官僚制の政策立案に対して対案・創造機能を持つための制度的基礎条件として、国会改革やスタッフ機構の整備・活用について政策提言を行い、本研究の結論とした。
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