ラテンアメリカの左翼思想は1970年代末から新たな展開を見せたが、これを「第1段階の変化」とすれば、80年代後半からは経済、政治の両面において「第2段階の変化」と呼びうる展開が進行中である。本研究はチリ(社会党右派、民主化党)、ブラジル(労働者党)、ペル-(旧統一左翼)に関してこの変化を考察した。以下に示す特徴は、チリにおいてのみ明確に観察される。 1.経済面では、80年代前半の経済プロジェクトはソ連型経済モデルとまったく同じものではなく、市場の機能を活かすこと、所有形態の多元主義、自主管理部門の重視などを特徴としていたが、同時に経済構造の根本的変革があくまで追求されていた。それに対して80年代末以降は、資本主義の枠内での改革を目指す方向に転換した。 2.政治面では、まず哲学的・理論的次元でマルクス離れが見られる。しかし以前からマルクス主義は社会分析の方法というよりは急進的な社会変革の意志の象徴となっており、従ってマルクス主義の放棄の実践的帰結は左翼の提言の穏健化であった。哲学的・理論的次元での第2の動きは、社会主義と自由主義の共通点の強調である。第3に、短期的に実現可能なことのみを目標とするという意味での現実主義が登場している。第4に、汎政治主義の放棄が見られる。次に、言説、政治プロジェクト、実践の次元における一つの変化は、制度的領域の重視と社会運動の軽視である。第2に、実践の次元で、左翼政党に伝統的な草の根活動家中心の政党から、マスコミを媒介とする幹部党員の発言に依存し、マーケティング技術を駆使して選挙を中心に活動する政党に性格が変化しつつある。第3に、連合相手の選択において、左の共産党を切り捨て、中道勢力と結びつこうとする傾向が見られる。
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