研究概要 |
筆者が,過去に行ったディマンド・プルの側面に絞ったアプローチでの価格調整速度の計測に追加するものとして,日本(WPI)の低集計度価格指数(単一商品レヴェル:500品目)に関する推計を完了することができた。米国(PPI)と日本(WPI)の高集計度の産業価格指数と,米国(PPI)の低集計度価格指数(単一商品レヴェル:450品目)と合わせると,両国の卸売物価指数に関しての分析結果をまとめることができる。 (高集計度レヴェル) 1.インフレの価格調整加速効果。両国ともに,70年代の高インフレ期の価格調整速度は,その前後の低インフレ期に比して高い。 2.米国に比べると,日本の調整は60年代には遅いが70・80年代に入って大きく加速されてむしろ早くなっていること。 3.低インフレ期から高インフレ期への移行に伴う価格調整加速効果は両国とも顕著だが,逆の高インフレ期から低インフレ期への移行時には日本の価格調整減速化が相対的に小さい。 4.貨幣成長の内の成長貨幣にあたる部分を考慮して,ディマンド・プル圧力から控除しても,上述の結果は変わらない(日本データのみの結果)。 (低集計度レヴェル) 1.インフレの価格調整加速効果。両国ともに,70年代の高インフレ期の価格調整速度は,その後の80年代:低インフレ期に比して高い。 2.70・80両年代間の変化は米国の方が顕著である。 3.産業集中度の影響が低インフレ期には明瞭だが高インフレ期には小さくなること(米国データのみの結果)。 インフレ率の変化が価格調整速度に影響を及ぼすというニュー・ケインジアンモデルの含意は,日米両国の高・低両集計度の卸売価格指数によって支持された。両国の価格調整速度の水準そのものの直接的な比較は困難であるが,70年代から80年代へのインフレ率低下に対応する価格調整の減速化に関しては,米国の方が顕著であることが両国の高・低両集計度指数の分析結果の比較によって,明らかになった。インフレーションのディマンド・プル以外の側面や,近年の日本におけるデフレ傾向の分析などが,課題として残された。
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