1994年度の研究はまず第1に、EU市場統合を目指して活発に行われた80年代後半の経済活動の中で、各国の産業連関構造はどのように変わったかという点の解明に重点がおかれた。ドイツ90年表、イギリス90年表、イタリア88年表、スペイン88年表などが収集され、各国レベルで80年代後半の接続分析をおこなった。特に大きな構造変化が生じたのは、南欧のスペインやポルトガルである。これにはもちろんEU加盟が大きく影響しているが、輸出入においてEUへの特化がさらに進み、生産や雇用のEUへの依存度も大きく上昇している。しかし製品を生産、輸出するためのEUからの輸入も大幅に増加しているために、自給自足率が3%程度低下するという問題も生じている。この点は今後EUに加盟する諸国の経済を考察する際にも重要な視点となる。一方、南欧への輸出を著しく増やしたドイツやイタリアなどでは、もちろん活発な域内輸出が国内経済の成長を促進したが、好景気に支えられて民間消費や固定資本形成も大きく寄与したことが分析された。研究成果は95年度に公表予定である。 第2に、EU国際産業連関表をさらに拡張するための基礎研究をおこなった。一つは国際産業連関表を作成する際のMirror Statistics Puzzleと呼ばれる貿易統計の問題点である。OECDや国連統計よりもEU統計局の方が、域内貿易に関しては誤差が少ないことを明らかにした。さらに1990年表を作成する際にも重要となる旧東独の産業連関表についても、連邦統計局の内部資料を入手し、旧西独との類似性や相違を中心に検討を行なった。国内生産の輸出依存度が高い点では旧西独と同様であるが、生産技術の遅れによって、褐炭を中心にエネルギー依存度が旧西独よりも著しく高い実態が明らかになった。これについても、1985年EU国際産業連関表の改訂版とともに近く公表予定である。
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