この研究では、通産省が日本の輸出入の決済通貨の推移をみるために、1992年から新しくとりはじめた統計の「決済通貨建動向」にもとづいて、国際通貨としての円の現状を分析している。この統計は、企業が提出を義務づけられている輸出入報告書に基づいて作成されているものである。 まず、最初に行ったことは、以前に通産省が公表していた「輸出確認統計」と「輸入報告統計」にもといて評価されていた日本の円建て貿易の実態との比較である。90年代の特徴は、日本の輸出の円建化は80年代に約1/3程度まで上昇し、それ以後増減を繰り返していたが、90年代に入って4割を越えるまで上昇した。また、円建て輸入の比率も急増し、1987年で10%を越えた後、1993年には20%を超え、急増している。 地域別、商品別の動向も、80年代までの状況とかなり異なってきていると評価できる。特に、東アジア諸国における工業製品の貿易については、対外直接投資との関係で一定程度説明がつくことが明らかにされた。同地域における円建化の進行と、日系企業の対外直接投資の拡大との間に、高い相関があることが示された。この点では、貿易における円建て輸出入と多国籍化した日本企業の企業内貿易との関連を統計的に検証することができたと考えている。 しかし、一方で、東アジア諸国の為替相場が、円相場よりもドル相場に強く規定されており、日系企業以外での円建化の進展が阻害されていることも分析されている。特に、アセアン諸国の為替相場が、90年代に入って、ますますドルとのリンクを強めていることも指摘されている。しかし、この点で、94年から95年にかけての急激な円高、ドル安の影響がこうした傾向の一定の変化を与えるのではないかと考えている。95年3月のシンガポールの通貨当局者は、対外準備のドル資産から円資産への転換を積極的に進めていることを公表した。外貨準備の円建化が急速に進展し、円とのリンクが強化される中で、さきに述べた傾向は変更されると予想されている。 こうした点も踏まえて、アジアにおける円通貨圏の問題をこの研究の中で検討した。
|