本研究は、1)東南アジアや中国での輸出加工区や経済特区に基づく近代的産業発展の経験を自国経済にも適用しようというオセアニア島嶼諸国の最近の試みを、フィジ-とパプアニューギニア(PNG)の事例を中心に詳細に調査してそれぞれの全体像を明らかにすること、2)そうした方向性が、当該島嶼経済の国民経済的自立を長期的に保証し得るものなのかどうかを検証すること、の二点を主眼に進められた。但し、1987年末にTFF/TFZ制度をスタートさせたフィジ-については、既に7年が経過している関係で相当の資料が利用可能であり、1)と2)の双方について突っ込んだ作業を進めることができたのに対して、PNGの場合には、そうした試みの核となる産業センターの設置が、内戦(ブ-ゲンビル紛争)激化を背景に遅れていることが明らかになったため、その構想の概要と東南アジア等での経験との異同を調査するにとどまった。ここでは、字数制約の関係上、フィジ-の事例研究から得られた知見についてのみ概要を記したい。フィジ-のTFF/TFZは、現実にはTFF中心(TFZを設定してそこに企業を誘致するのではなく、進出企業をTFFに指定して様々な優遇措置を適用する方式)で進められてきた。従って、企業周辺のインフラ不整備等負の効果が顕在化し、フィジ-経済に対する寄与は期待できないのではないかとも見られてきたが、実際にはTFF(指定された企業の業種は殆どが繊維)の総生産額と総輸出額は共に拡大を続けており、同国の経済成長率と貿易収支の改善に大きく貢献していることが明らかになった。その意味では、東南アジア等での経験がフィジ-についても適用可能という見通しを立てられなくもないが、他面、TFFとそれ以外の企業の間での賃金格差を背景に所得格差が拡大し、サブシステンス・アフルエンスで特徴づけられてきた同国経済で、現在貧困の問題が深刻化していることも明らかになった。
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