日本の国民医療費の増加に関しては、人口構造の高齢化、疾病構造の変化、医療行動の高度化、の3つの要因が挙げられてきた。これらが全ての要因ならば、今後の高齢化社会において、現行の老人医療制度が維持された場合、医療費の高騰による財政の圧迫は避けられない問題となる。従ってその解決策は医療費財源としての税制改革を含めた医療保険の制度改正に見い出す以外にないことになる。しかし、現実の医療行動における非効率という要因については、これまでにあまり指摘されてこなかった。この第4の要因を現実的に探るために、医師達に対してヒアリング調査を進め、ディスカッションを行った結果、幾つかの現状とその原因が確認された。 医療行動における非効率性は、供給者である医師の行動、需要者である患者の行動、および政策によって発生すると考えられる。情報が非対称的な医療において、供給者としての医師行動が効率性を損なうという可能性は予想されるものであったが、他の2つは、調査の結果、新たに明らかになったものである。患者の行動に基づく非効率性としては、民間保険の給付権発生の為の診療長期化の要求といった医療の過剰需要を挙げることができる。政策による非効率性は、政府の要求が医師に対する圧力となることから発生し、次の2つの側面を持つ。1つは国立病院におけるベッドの稼働率を見かけ上高い水準に保つ努力等にみられる過剰医療供給による非効率である。もう1つは診療行為の回転率を上げる為の過小医療(患者一人当りに対する過少な医療供給)による非効率性である。特にこの過小診療は、現時点で十分な治療が行われなかった為に将来の医療需要を増幅させるという動学的な非効率的側面も持っている。今後、これらの要因をさらに分類整理し、指標化することによって、医療費高騰の要因分析を行う。その結果から医療費抑制のための有効な手段に関して検討を行う予定である。
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