(1)証券取引法監査のみならず商法(大会社)監査においても、公認会計士(会計監査人)として企業のガバナンスに関与する社外職業監査人は、本来、一定の契約に基づいたサービスの提供における債務不履行(契約違反)や、当該サービス上の暇疵(不法行為)に起因して、常に損害賠償訴訟を提起されるリスクにさらされいる。特にここ数年、株式会社の一機関として会計監査を専担する会計監査人にとって、株主代表訴訟手続の簡素化や海外の機関投資者の増加は、企業ガバナンスへの関心を高め、社外職業監査人としての被訴訟リスクをも高めてきた。このような傾向は、ボーターレス化した資金調達の促進と、それに伴う監査報告書の国内指向から国際的流布によって、ヨリ増進させられている。 (2)以上のような視点から、現在時点まで研究を行ない、特に株主による企業ガバナンスに積極的で、かつ社外職業監査人訴訟ではかなり先を行くアメリカの判例を中心に探り挙げて研究した。その中で、アメリカの会計事務所はその損害賠償負担能力の相対的大きさ(ディープ・ポケット)によって、被損当事者(原告)の標的にされてきた事実があった。しかし、アメリカ職業会計士業界自体もそのようなリスク負担能力に限界を感じ、近年、有限責任パートナーシップ(LLP)への立法化を各州議会に働きかけを行なってきた。その結果、幾つかの州では当該LLP制度が認められ、業界に対する法的責任追及の環境が新たな時代に入ったともいえる。 (3)この平成6年度分について、具体的には、コモン・ロ-と監査論上の争点という両専門分野における知識に基づき、アメリカにおいて社外監査人に賦課されてきた法的責任の流れを、判例から把握するという従来からの研究スタイルを維持しつつ、新たにLLP立法化のためのアメリカ公認会計士協会ならびにビッグ・シックス各事務所の対応について、協会メンバーへの会報などの資料を請求し続けている情況にある。但し、これらの資料については、未だ完全に入手しきれていない。
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