研究概要 |
筆者は代数多様体XのChow群CH^r(X)の研究に対し代数幾何的または数論的な異なったコンテクストにおいて多角的なアプローチを押し進めてきた。そこで道具として使われるべき理論も様々な物がある。Xが複素多様体の場合Xのホッヂ構造と代数的サイクルの関係が一つの大きなテーマであった。筆者は依然より混合モチーフの哲学に触発されBeilinsonによって予想されたChow群上の自然なフィルターを定義することに成功しさらにこれが多様体のホッヂ構造に深く影響されることを示した。この研究を更に押し進め同様の考察を多様体の族の上のサイクルの族にホッヂ構造のvariationがいかに影響を及ぼすかという問題にまで発展させることを現在押し進めている。この研究は多様体上の混合モチーフの層の圏の構成といった一般論の研究にも応用されることが期待される。 一方数論的なコンテクストにおける代数的サイクルの研究も進めてきている。数論的な体上定義された多様体のChow群の研究にはその多様体に内在する深い数論幾何的性質を理解することが大切である。筆者は特にそのような多様体のChow群のねじれ部分の有限性の問題(これはH.Bassによって提出された問題である)に取り組んできた。これに関してはXが数体上定義された多様体でH^2(X,O_X)=0の仮定のもとCH^2(X)_<tor>は有限群であるというColliot-ThelneとRaskindの定理が知られていたが筆者はそれを精密化してCH^2(X)_<tor>の有限性のみならずサイクル写像によりエタールコホモロジーと結び付けることに成功した。更に上の定理の証明で決定的である仮定H^2(X,O_X)=0を取り除くことも試みた。実際上の有限性定理をモヂュラー楕円曲線の積多様体の場合に示すことに成功した。これはこの種の有限性定理としてH^2(X,O_X)≠0の場合のものとしては始めての例である。証明の構成要素そしてモヂュラー曲線の整数論とp進ホッヂ理論といった本質的に新しいアイデアが使われている。
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