1990年頃京都大学数理解析研究所の柏原氏により発見された結晶基底の理論と、1991年にロシアの数理物理学者フレンケルとレシェティヒンにより発見されたq-頂点作用素の理論は量子群、格子模型、共形場理論などに特に大きな影響を及ぼした。 申請者は、結晶基底を記述するために柏原氏により導入された柏原代数に対しq-頂点作用素の類似物を定義しその2点関数が、いわゆる量子R行列と一致することを示した。 申請者の目的としては、2点関数のみならず、Nが2より大きい場合にN点関数の具体的な記述を与えるということがあった。申請者は、まず、柏原代数に対するq-頂点作用素の双対的な描写として現れる、変形された量子群の結晶基底の構造をリー環sl_2の場合に明らかにした。そこでは、変形された量子群の結晶基底が、道空間表示としうものを用いて、最も単純な2次元アファイン結晶のテンソル積のアファイン化の無限直和の形で表されることを示した。これは、フレンケルとレシェティヒンのq-頂点作用素の理論を用いて、京都大学の神保氏らによって解析されたXXZ模型の場合の結晶基底による描写のある種の極限に相当することが分かった。 これらをもとにして、N点関数の具体的な記述に対しては、R行列の積に関係したものであるという予想が立つが、これは今後の大きな課題である。R行列の解析は、現在なお世界中の多くの研究者達が追求する大きなテーマであり、量子R行列が柏原代数に付随したq-頂点作用素と深い関係をもつということは、量子R行列に新しい解釈を与えたと言え、他のR行列の解析に役立つものと期待できる。
|