今年度の研究成果について以下に述べます。最初の結果は、K3曲面に対するSO(3)-Donaldson多項式の計算です。今までK3曲面のDonaldson多項式はSU(2)の場合には、K.O'Gradyによって計算されていました。私は、代数曲面上のSO(3)-反双対接続と第一チャーン類が0でない安定ベクトル束との対応関係を利用する事により、Donaldson多項式が安定束のモジュライ空間の適当な因子の交差数として表わされる事を証明しました。この定理の証明の核心は、モジュライ空間が、K3曲面の0次元サイクルの作るヒルベルトスキーム双有理同値になるという事実を示す点にありますが、この方法はK3以外の代数曲面に対しても適用できる可能性があります。二番目の結果は、モジュライ空間の特異点に関するものです。代数曲面上の安定束のモジュライ空間は、半安定層を付け加える事によってコンパクト化できる事が知られています。私は、層の第二チャーン類が十分大きければこのコンパクト化は正規代数多様体になり、更に曲面の標準層に関する適当な仮定の下では、Q-Gorenstein多様体になる事を証明しました。この事実は階数二の場合にはJ.Liらによって示されていましたが、私の結果はこれを任意の階数に一般化するものです。この定理によってコンパクト化に対して代数幾何の通常の道具を適用できる事が明らかになったと言えます。今後は、コンパクト化の小平次元やピカ-ル群等、より詳しい幾何学的性質を調べる事が目標になると思われます。
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