今年度の研究課題は、リーマン面上のベクトル束のモジュライ空間上のシンプレクティック幾何学を、場の理論から示唆される事実を指導原理とすることにより、研究してゆく、というものであった。そして実際にWess-Zumino-Witten模型(以下WZW模型)と呼ばれる共形場理論と、リーマン面上のベクトル束のモジュライ空間との関係を研究し、以下の成果を得た。 WZW模型は、近年アフィンリー環の表現論等を用いることによって、数学的に厳密に構成されていた。すなわち、その代数的、表現論的構造は明らかになっていたが、幾何学的構造は見えにくいものとなっていた。そこでWZW模型をループ群のシンプレティック幾何の立場から再構成した。もう少し詳しく述べると、WZW模型の汎関数積分の形から、理論のヒルベルト空間が、ループ群の幾何学的量子化として得られることを導いた。次に理論のゲージ対称性を幾何学的に記述し、conformal blockの空間の幾何学的な意味を明らかにすることができた。その結果、conformal blockの空間とリーマン面上のパラボリックベクトル束のモジュライ空間の幾何学的量子化との関係が、明確に見えるようになった。 現在、一般のトーラス作用のあるシンプレクティック多様体の幾何学的量子化の研究が進行中である。その特別な場合としてconformal blockの空間の次元公式であるVerlindeの公式をシンプレクティック幾何の立場から意味付けることが可能になる。
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