関数微分方程式の解の漸近挙動への"遅れ時間"の影響を調べるために、当初の計画では、まず、Volterra積分微分方程式の安定条件とx'(t)=-ax(t-1)のπ/2安定条件とを比較する予定であったが、non-convolution型のVolterra積分微分方程式をも取り扱うためには、もう少し一般化した方程式x'(t)=p(t)x(t-r)を考える必要があった。そこで、まずx'(t)=p(t)x(t-r)の解の挙動をコンピューターによってシュミレートを行った。その結果、非常に興味深い現象をとらえることができた。それは、"遅れ時間"をゼロにしたときには漸近安定にならないが"遅れ時間"を持たせると漸近安定になるということ、また"遅れ時間"を大きくすると解は振動しやすいということである。これらの現象の内、特に前者を解析的に調べてみた。その概要は以下の通りである。 p(t)=sin tの場合、r=0では解は周期解となり、漸近安定解にはならないことは明らかであるが、一方、0<r<0.6096では漸近安定となることが証明できた。実際には、もう少し一般化したp(t)(振動的周期係数と名付けた)について、同様の結果を得た。従来、p(t)が負の値しかとらないような場合についてはかなり研究されているが、正負両方の値をとるような場合についてはほとんどなされていない全く新しい結果である。 今後は、0.6096という値をコンピューターシュミレーションで得た値0.863に近づけると共に、解の振動についても"遅れ時間"との関連性という立場で調べていきたい。また、これらの結果をVolterra積分微分方程式にも応用していく予定である。
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