研究概要 |
滑らかな係数をもつ確率微分方程式の解は,形式的に確率ティラ-展開,即ち,1次,2次,3次,...の多重確率積分の無限和に展開される.この和はあくまで漸近的な意味しかなく,一般には概収束,確率収束,あるいは平均収束等はしない.しかしながら確率ティラ-展開は,例えば,熱核等の漸近問題を考える場合,展開中に現れるすべての多重積分から熱核の情報を知ることが出来るという意味で有効である. 論文“Multiple stochastic integrals..."では,確率ティラ-展開中のp次の多重確率積分の表現公式を求めた.実際,1次の多重積分はブラウン運動の線形結合として表される汎関数,また2次の多重積分はブラウン運動の2次式,及びレヴィーのstochastic areaタイプの確率積分の線形結合として表される汎関数である. さて,テリ-・ライオンは,プレプリント“The interpretation and solution of ordinary differential equations driven by rough signals"において次のことを述べた(1993年): 「確率ティラ-展開中のp次(p≧3)の多重積分は,deterministicな意味で,1次,2次の多重積分の汎関数である.」 しかしこれは間違いであることがわかった.
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