本研究の主要なテーマは、自己相似的な構造を持つ集合を確率論的な手法を用いて研究することであった。具体的に記すと、まず自己相似集合上の幾何学的測度と繰り込み変換不変な測度の関係を研究した。これについては次のような成果を得ている。繰り込み変換に関して不変な測度が、ハウスドルフ測度やパッキング測度のような幾何学的測度と互いに絶対連続になるのはある特別な場合の一通りしかない。これは統計力学的手法を用いて示される。逆にこれを用いれば幾何学的測度に統計力学的な意味付けを与えることも可能である。これらの結果は論文としてすでにまとめ、発表の予定である。 次に前述の統計力学的な手法を拡張してランダムフラクタルに適用することを試みた。これによって次元等が正確に求められ、従来広く知られていた結果の拡張になっている。幾何学的測度が退化したり発散することもこれによって明確な説明をすることができる。また前のものと同様に、繰り込み不変測度と幾何学的測度の関係もある程度わかる。これらの研究結果は現在論文にまとめている。 さらに有理関数のジュリア集合についても研究した。ジュリア集合の次元が、パラメータ領域の境界上で解析的でなくなることを示した。この結果は広島大学大学院生中田寿夫氏と共著の論文としてすでにまとめている。 以上の研究成果を踏まえ今後の研究について展望すると、ランダムフラクタルの研究についてはより詳しい次元の計算などまだ不明の部分が残され、ランダム固有の興味深い問題も生じていると思われる。今後はこれに集中的に取り組みたいと思っている。
|