量子カオスは近年物理の分野でさかんに研究されているが、特に数学の問題として定式化されているのは量子力学における固有値の分布と波動関数の漸近挙動である。特にKicked rotator modelの固有値分布の問題はエルゴード的力学系の(規格化した)再帰時間の分布の問題と深く関係しており、先に、Axiom A系については、ほとんど全ての点のε-近傍への再帰時間の分布が、ε→0の極限としてPoisson分布になること、及び、周期点はその反例になることを示した。平成6年度はさらに一般の力学系に対して、同様の問題を調べ、"自己混合性"という条件を満せば、弱ベルヌイ程強い条件がなくても(φ-混合性の下で)Poisson分布が現われることを示した。また、一次元力学系に対してもいろいろな条件の下でPoisson分布が現われることを確めた。以上の結果は、平成6年5月の"International Conference of Dynamicol Systems and Chaos"で発表した。また、10月には、国内の力学系研究者を集め、理論物理学者も交えて、量子カオスをテーマとする研究集会を企画し、実行した。この研究集会ではSinaiを中心とした研究者達の固有値分布と平面閉曲線内の格子点の分布との関連についての結果をまとめ、私自身の結果との関係について講演した。
|