この仕事は、グル-オンの幾何学的配位であるインスタントンを介して生じる軽いクォーク間の相互作用の影響を、特に2体力部分の相互作用について、負パリティのクォーク系を対象として研究したものである。 フレーバー8重項・負パリティの核子の励起状態及びバリオンの観測される質量スペクトルを見ると、クォーク間には殆どスピン軌道力が存在しないことがわかる、一方、相対の軌道角運動量がP波である2核子系では核子間に強いスピン軌道力が観測される。この2つの現象を同時に説明するのは長い間未解決の問題とされていた。何故なら、クォーク間の1グル-オン交換力から出て来るスピン軌道力は非常に強く、核子間のスピン軌道力を説明できるが、同じクォーク模型で核子の励起状態の質量を求めると、その強いスピン軌道力の為にスペクトルが完全に壊れてしまう。今までのクォーク模型での取り扱いは、核子の励起状態を考える場合はスピン軌道力を手で取り除き、2核子系を考える時はスピン軌道力を考慮するという極めて不十分なものであった。 この研究は、P波に対するスピン軌道力は、核子の励起状態ではフレーバー1重項のクォーク対にのみ働き、2核子系ではフレーバー8重項のクォーク対に働くものが主であることを示した。インスタントンに起因するクォーク間相互作用から出て来るスピン軌道力は、フレーバー1重項のクォーク対にのみ働き、その結果、核子の励起状態では1グル-オン交換力から出てくるものを打ち消す事を、クォークポテンシャル模型及びMITバグ模型の場合について具体的に明らかにした。更に、2核子系ではその打ち消し合いが起こらず、強いスピン軌道力を保持できることをクォークポテンシャル模型を用いて示し、インスタントンの影響を考慮すると、この問題が解決出来ることを結論できた。
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