研究概要 |
まず明らかにしておくべきことは、本研究の第一の動機であった,当初報告されたトリスタン加速器(高エネルギー物理学研究所)における2光子衝突過程での異常事態は,その後の精密測定の結果,必ずしも異常とはいえない,との再報告がなされたことである。この結果,この異常事象を説明可能として考えられた非常に軽いスカラートップの存在は,残念ながら否定されてしまった。ただし,トリスタン加速器で見つかるほど軽いものは否定されたとしても,超対称性理論模型の枠組みのなかで,重いトップクォークの存在から自然な帰結として予言される軽いスカラートップの存在そのものが否定されたわけではない。実際,平成4年春にテバトロン加速器(フェルミ研究所)で発見が報告されたトップクォークの質量は,約180GeVとかなり重い。 さらにこの報告の中では,測定された質量と生成断面積のあいだの関係が,標準模型で予測されるものと微妙にズレがあるとの記述がなされていた。この事実に着目し,本研究では,テバトロン加速器でトップクォークとともに軽いスカラートップが同時に生成されたとするなら,この微妙なズレがうまく説明可能であることを明らかにした。 具体的には,陽子反陽子衝突でグルイ-ノが対生成され,おのおののグルイ-ノがトップと軽いスカラートップに崩壊する機構を想定した。ここでスカラートップが十分軽いニュートラリーノと縮態しているなら,スカラートップ自体が測定器に検出されず,この過程の信号はトップクォークの対生成と区別がつかない。この機構により,トップクォークの生成断面積が予想より大きい事実を説明した。さらに,くりこみ群方程式を解き,このような機構がはたらくための大統一理論への制限を示した。
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