本研究においては、電場を加えたときの、結晶成長を原子間力顕微鏡(AMF)により直接その場観察し、結晶成長における電場の影響を原子レベルで把握することを目的とした。本年度の研究において得た結果を以下に示す。 1.基板結晶-溶液界面の評価 まず、電場を施す前の基板-溶液界面の作製および評価を行なうことを試みた。基板としてはよく知られた標準物質であるHOPGおよび、マイカ基板上に真空蒸着で作製した、AuならびにAg(III)単結晶薄膜をもちいた。これを電解質溶液(HCIO_4、HNO_3)中に浸し、AFMによりその場観察を行ったところ、いずれの表面においても原子像を安定に観察することに成功した。これらの原子像に見られる周期は、何れもX線回折から予測される原子間距離に等しく、基板表面が電解質溶液中では、安定な1x1構造を持つことを示している。 2.Agの電析による結晶成長の観察 上記の基板を用いて、Agの電析実験をおこなった。Au表面ではupd(underpotential deposition)を示すピークがvoltamogram中に出現し、原子像が観察されるのに対し、HOPG基板では、updを示すピーク並びに、原子像の変化は一切観察されなかった。この事実は、Ag原子-graphite表面間の相互作用がAg-Ag原子間の相互作用に対して弱いことを示唆している(日本結晶成長学会誌)。一方、過電圧領域では、Agはいずれも島状成長し、その島の密度は過電圧にともなって増大する様子が観察された。 以上の研究を通じて、層状物質並びに金属のwell-definedな基板を得ることができた。今後は、、溶媒を金属イオンから分子性結晶等に広げることにより、電場中での結晶成長に対しより普遍的な理論の構築をめざす。
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