II-VI族半導体超格子(ZncdHg)(SSeTe)における歪および混晶化(特にMe等のII_a族カチオン原子のド-ピング)が電子・励起子構造に及ぼす効果を定量的に解明し、この系の発光スペクトルを検討した。 1.電子構造の変化(密度汎関数法に基づくバンド計算結果):(1)歪は、格子不整合5%内のヘテロ構造においては、変形ポテンシャル及び海面分極ポテンシャルを通して、オフセット・有効質量に10%(前者は0.1eVのオーダー)、誘電率に1%程の変化を生じさせる。(2)一方、カチオン原子の一様な混晶化は、主に伝導帯の電子状態を変化させる。変化の方向・大きさは、ドープ原子の電子に対するポテンシャルの符号(引力か斥力か)と周辺原子の変位の大きさに依存する。例えば、II_a族原子のドープに対しては、ポテンシャルは斥力として働き、周辺原子はドーパントから遠ざかるために、伝導帯の電子レベルは常に上昇する。2.励起子構造の変化(バンド計算によるポテンシャルと波動関数を用いた変分法的な計算結果):(1)は歪は、主に有効質量の異方性を通して、束縛エネルギーを変化させるがその大きさは多くの系で5meV程と小さい。(2)混晶化は、電子・正孔の波動関数を介してのみドープサイドに励起子の束縛を与える。その効果はカチオン原子よりアニオン原子に対して顕著である。その理由は正孔の重い質量にある。3.発光スペクトルの検討:以上より、発光は混晶化によりドーパント回りに局在した励起子から起こると考えられ、これは実験結果と合致しているが、この効果による発光エネルギーの変化は非常に小さいことが結論される。つまりエネルギー位置は、歪と混晶化の影響を受けた電子・正孔状態のエネルギー(励起子の運動エネルギー)と量子井戸層への閉じ込めエネルギーでほとんど決まっている。将来に残された問題の一つは、このような局在化を動的に扱うことである。
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