本研究の目的はメタンおよび硫化水素のプラスチック相について、ブリュアン散乱測定を行い、音速、屈折率、弾性定数などの物理定数を温度・圧力を関数として決定、さらに弾性的性質を比較・考察することにより、分子の並進-回転相互作用による弾性的性質への影響について解明することである。以下に、本研究より得られた成果を示す。 1.室温下で、メタンのプラスチック相は約1.5GPaから5.6GPaの圧力範囲で存在する。このメタンプラスチック相の単結晶に対し、超高圧ブリュアン散乱測定を行い、音速、屈折率、弾性定数、等の圧力依存性を決定した。この結果を用いて、各方位へ伝搬する音速の圧力依存性を解析することにより、[110]方向へ伝搬する低周波数側の横波の音速の圧力依存性が小さく、弾性的異方性は加圧と共に増加することがわかった。これに対し、硫化水素の弾性的異方性は加圧と共に減少することが同様の解析で得られた。これは同じプラスチック相でも、硫化水素のように水素結合をもつものは、加圧によって水素結合が分子の回転を妨げるため、分子の回転-並進相互作用が小さくなるのに対し、メタンの場合は加圧により純粋に相互作用が大きくなるためと考えられる。以上の結果は本研究によって初めて得られたものである。 2.超高圧力発生用ダイヤモンド・アンビル・セルに温度制御用素子を取り付け、_-20〜50℃の範囲で温度制御を行える超高圧ブリュアン散乱測定用セルを開発した。これによってこれまで困難であった超高圧力下における弾性的性質の温度依存性測定が可能となる。
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