本研究課題では、固体表面、特に半導体表面の諸様相の理論的解明を目標として、格子ガスモデルのモンテカルロ計算を詳細におこなうことにより、Ge(111)表面におけるフローティング相の存在の可能性を議論した。以下に、本研究で得られた成果の概要を記す。 先の研究において秩序無秩序両相でGe(111)表面の温度変化をよく記述することが確立した第六近接までの粒子間相互作用を考慮した三角格子上の格子ガスモデルに対して、モンテカルロ法を用いて実空間ならびに運動量空間での相関関数を計算し、併せて代表的な粒子配置のスナップショットを検討した。これらの計算を行う際には、先の研究の結果からフローティング相が存在する可能性のあると考えられる温度範囲、パラメタ領域に焦点を絞り、この範囲を集中的にかつ詳細に調べた。これにより、実空間での相関関数の距離依存性が指数関数的ではなく粒子間距離の羃関数として減衰する様な温度範囲、パラメタ領域が存在することを示し、更に、そのパラメタ領域では互いにドメイン壁に隔てられたドメインが流動する状態にあることと電子線回折、x線回折等の散漫散乱スポットに対応する相関関数の運動量空間でのピーク位置が秩序状態での位置から無秩序状態でのそれへ温度とともに移っていくことを示した。以上のことから、ここで用いたモデルのパラメタがある領域に含まれるときには秩序相と無秩序相の間にフローティング相が存在することが結論できる。 Ge(111)表面に対応するパラメタの値がこの領域に含まれるか否かは微妙であり、実験で得られている情報からだけでは充分には決められないが、1/8次のブラッグ点から変位した散漫散乱スポットのx線回折による観測があることを考えると、この表面にフローティング相が存在することは充分に期待されるため、この問題に関しては、より現実の系に近いモデルを用いた更に詳細な研究が望まれる。
|