研究概要 |
アルカリ金属をドープしたフラーレンA_3C_<60>は極低温で超伝導性を示し、その金属状態は磁気共鳴の格子緩和時間の測定等により理解されてきた。一方、高温でC_<60>分子が回転を始めるに伴っていくつかの相転移が報告されているが、それらは未だ殆ど理解されていない。本研究では超伝導転移温度(T_C)の高い物質(Rb_2CsC_<60>,RbCs_2C_<60>)において、その転移を核磁気共鳴(NMR)をプローブとして実験を行う予定であった。しかし、超伝導転移温度は低いもののT_Cと格子定数の関係から重要であると思われる物質Na_2RbC_<60>,Na_2CsC_<60>において構造相転移を示すことが知られたため、これらの試料の磁気共鳴実験を行い、以下の事項を明らかにした。 1.アルカリ金属(^<87>Rb,^<133>Cs)のNMRにより、それぞれの共鳴スペクトルのシフトの温度変化を測定した。低温におけるシフト値は他の超伝導性を示すA_3C_<60>のもつシフト値からかなりずれていることが明らかにされ、これらの物質はそれ以外のA_3C_<60>とは電荷移動度が異なることが示された。 2.C_<60>分子の回転の状態を調べるために、^<13>C NMRスペクトルの格子緩和時間(T_1)の温度変化を測定した。これによりT_1は金属的な緩和と回転運動による磁場の変調による緩和の和により表すことができることを明らかにした。 3.上記のT_1の温度変化を解析することにより、相転移より下と上のそれぞれの温度領域でのC_<60>分子の回転の活性化エネルギーを求めた。これよりC_<60>分子の回転の活性化エネルギーが低温では高く、回転が静的であるのに対し、高温では活性化エネルギーが低く、等方的回転運動であることが示された。すなわち高温では金属性を示す物質では初めての柔粘性結晶であることが示された。
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