本研究では、各種電界(直流、交流および周波数スイ-プ交流)前印加直後の誘電物性量を、商用周波数領域において交流電解印加直後の過渡応答を含めて測定可能とし、高分子材料の損失発生機構を詳細に検討することを目的として研究を進めてきた。以下に研究実績の概要を示す。 1.ポリエチレン等の高分子材料を試料とした高電界誘電特性の測定に際して、直流ステップ、直流ランプ、周波数スイ-プ交流、およびこれらの複合波形を前印加可能な電源を作製した。また、直流分を重畳した状態でも、交流ランプ電圧などを出力可能とした。 2.上記電圧前印加直後や、直流・交流重畳時の、商用周波数領域における交流損失電流波形の過渡応答を連続波形取り込みし、そのFFT解析により、印加電圧一周期毎の試料のtanδ、交流導電率および容量の変化分を計算・評価するシステムを構築した。 3.DSP(デジタルシグナルプロセッサ)を有する高電界誘電特性の波形解析システムについて、データ取り込みとFFT波形解析を電界印加時にリアルタイムに並行処理可能とするシステムの基幹部分の作成に成功した。今後、本システムを進展させることにより、高電界誘電特性の電界印加履歴や絶縁破壊前駆現象と連動した電源システムの遮断などが可能となるものと期待される。 4.以上により、高分子材料の高電界誘電物性の非線形応答を含めた観測を可能とし、固体物性学、特に高電界誘電特性の非線形性や過渡応答と電圧印加履歴との関係に対する新たな知見を得た。特に、直流重畳時の高電界誘電特性やtanδが負となる試料の原因解明などは、本研究により初めて明らかになったことである。
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