本研究では半導体クラスターのドリフトチューブ内での異性体分離を確認し、さらに光電子分光による構造の解析を行う予定であった。しかしながら現在のところ、ビーム中のクラスターの構造異性体の存在の可能性を光電子分光によって調べる段階にとどまっている。対象としては、クラスターサイズの増加に伴う電子構造の変化の小さなNa原子溶媒和クラスターを選んでいる。このクラスターは溶液中の金属原子の回りの局所的な幾何構造、電子構造を知るためのモデルと考えられ、以前から申請者らが研究対象としてきたものである。本年度はナトリウム-水およびナトリウム-アンモニアの系Na^-(H_2O)_<n'>Na^-(NH_3)_nに関して負イオン光電子分光を適用し、特に後者に関して負イオンの異性体と考えられる光電子ピークの検出に成功した。Na^-の光電子スペクトルでは3s電子の脱離によるピークが0.5eV付近に現れ、さらに3p電子由来のバンドが約2.6eVに現れる。Na^-(H_2O)_nではnの増加とともにこれら二つのバンドが単純に高エネルギー側にシフトしていくスペクトルが得られた。一方Na^-(NH_3)_nでは0.5eVのバンドはnが変化してもほとんどシフトせず、1.2-1.6eVの領域に別の新たなバンドと考えらえるピークが現れた。このバンドの帰属としては負イオンにおける構造異性体の他に、中性クラスターでの電子励起状態の可能性がある。これらの二つの可能性について、理論計算の結果との対応を現在検討しているが、構造異性体の可能性が高い。したがって、この系に関してドリフトチューブによって異性体を分離できる可能性がある。
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