高温超伝導を担っている電子対の対称性を明らかにすることは、その発現機構に関する直接的な知見が得られるものと注目されている。申請者らは、ビスマス系銅酸化物高温超伝導体における電子対の対称性を明らかにするために、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、この系の原子像観察とトンネル分光を行った。得られた成果は以下の通りである。 (1)液体ヘリウム温度の極低温下で、高温超伝導を担っている銅-酸素面の鮮明な原子像が観測された。銅-酸素面の原子像観察に成功したのは、これが世界的に見ても最初の例である。また、この原子像の特徴から、超伝導を担っているキャリヤ-が銅原子の3d軌道と酸素原子の2p軌道に主に存在することが明らかになった。このことは、高温超伝導体の電子状態に関する重要な知見である。 (2)銅-酸素面の鮮明なSTM像観察と同時にトンネル分光(STS)を行い、明瞭な超伝導ギャップを観測した。銅-酸素面の鮮明なSTM像と超伝導ギャップの同時観測は申請者らが最初である。STSの実験にとって、鮮明なSTM像が観測されるときが、最も理想的で、信頼性の高いデータが得られる。したがって、申請者らの結果は、電子対の対称性に関する議論にとって極めて重要な成果と言える。 (3)銅-酸素面の鮮明なSTM像と同時に測定されたトンネルスペクトルから、ビスマス系銅酸化物における電子対の対称性はd波的であることが示された。このことは、超伝導を担っている電子対の形成には、異方的な引力機構が関与していることを意味するもので、超伝導の発現機構を考える上で極めて重要な結果である。
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