本研究は磁場中の低温STMを用いて層状超伝導体2H-NbSe2の磁束格子の観察を行うことを目的としており、実際に観察に成功した。 我々は非常にコンパクトで、14Tの超伝導磁石の中で動作する低温STMを製作した。このSTMを用いて2H-NbSe2についてSTS(Scanning Tunneling Spectroscopy)を行った。試料の2次元面内の各点の電流・電圧曲線のゼロバイアスにおける傾きは、試料の各点のフェルミレベル近くの状態密度を表す。このため磁束格子像を得るためには、磁場の下でのこの傾きを画像化すればよい。今回購入したデジタルストレージオシロスコープは、2次元面内の各点での電流・電圧曲線の観察、記録に用いた。観察は0.5Tから2.5Tの磁場の下で2.2Kで行った。 0.5Tから2.5Tの磁場の下では三角格子を作る磁束格子を観察し、磁場の増加による、その格子間隔の減少を観察した。さらに磁場を増大させて3T以上にすると、ギャップ内での状態密度が増加してくるために、磁束格子を観察することはできなかった。一方0.5T以下では磁束量子の間隔が大きくなってくるが、我々の用いているピエゾ素子が、低温で動く範囲が小さくなるために、観察をすることができなかった。また今回測定を行った磁場の範囲では、以前にHessらに報告されているような低磁場での準粒子励起は観察されなかった。 これらの問題点は、データのS/Nを上げることと低温でより大きく動くピエゾ素子を用いることにより解決可能である。またさらに低温に下げることによって、他の超伝導体(例えば重い電子系の物質)についても適用可能である。
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