有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Clの常圧でみられる高抵抗相についてホール抵抗の測定を行い、高温部の金属状態から低温での高抵抗相への転移によってキャリアー数の変化が見られないことを示し、高抵抗相への転移がギャップ生成に伴う通常の半導体転移ではないことを指摘した。またこの高抵抗相では磁気抵抗は小さく、圧力下のリエントラント転移で見られる様な敏感な温度・磁場履歴依存性を示さない。またBEDT-TTF分子の両端のエチレン基の重水素置換により高抵抗相が安定化することが明らかになり、圧力温度相図中における超伝導相と高抵抗相との位置関係の解明に関する知見を得た。有機導体では元々キャリアー濃度が小さいことを考慮すると、高抵抗相への転移の機構として電子相関をパラメータとしたモット転移が考えられる。常圧で安定であった高抵抗の非金属相が、加圧によって電子相関の程度が変化することによって13Kで超伝導に転移する金属相との自由エネルギー差が小さくなり、磁場による変化に敏感なリエントラント転移を示すようになると考えられる。 また電気抵抗で見られたリエントラント転移を確認する目的で、圧力下の超伝導相における外部磁場下でのrf交流磁化率測定を行った。リエントラント転移に挟まれた超伝導相では、加える交流磁場の方向により、磁化率の温度依存性が異なることを見出した。この結果は常圧で超伝導転移を示すκ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brや酸化物高温超伝導体でも見られ、2次元的な超伝導に共通する性質であることを示した。これは、ゆらぎの効果による磁束量子の2次元化に関係し、特に高周波を用いることで常伝導成分による表皮効果が高められた結果、際だった異方性を示すに至ったと結論している。
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