全般に、S=1反強磁性量子スピン鎖の物性を、量子モンテカルロ法を用いて研究した。当初の研究計画を達成するに留まらず、新たな方向性を開拓する事にも成功したものと考えている。 まず、現実のハルデイン磁性体を説明する理論的モデルとして、異方性、外場等まで含めたS=1反強磁性ハイゼンベルグ鎖を設定し、これの量子モンテカルロプログラムを作成した。これを用いて、エネルギーギャップ、鎖端磁化、帯磁率などへの異方性の効果、また外場に対する磁化曲線などの計算を行った。これらの研究成果は、従来の実験結果をよく説明するばかりではなく、今後の実験的研究に対する示唆的な役割も十分に果たした。実際既に我々の研究成果は、東京大学物性研究所、理化学研究所、九州大学工学部等の実験研究グループによって比較検討され、論文においても参照されている。 一方、虚時間相関数を低温で計算することにより、エネルギーの分散関係を精度良く導出することに成功した。この方法は従来のアイデアを基礎としてはいるものの、その応用において斬新なものであり、今後の量子多体系の素励起の研究に一石を投ずるものである。得られた結果は、中性子散乱の実験結果をよく説明する。 さらに上記の研究とは別に、結合交替量子スピン鎖の研究に着手した。これは、結合交替まで含めた量子スピン鎖は、スピン量子数の整数、半奇整数を問わず、ある一定の条件のもとで臨界性を示す(ギャップレスとなる)という、場の理論による提言に刺激を受けてのものであり、ハルデイン問題を、量子スピン系の横断的、普遍的問題として問直したいという動機による。既にS=1スピン鎖において、臨界現象を視覚化することに成功し、その臨界性がセントラルチャージ1の共形場理論で記述されることを明らかにした。
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