トンネル分光によりセリウム化合物の研究を進めた。特にその結晶場励起のスペクトル構造、近藤半導体のエネルギーギャップの形成機構を探ることを主な目的とした。ここでは近藤半導体CeNiSn、CeRhSbについて得られた結果の概要を述べる。多結晶によるトンネルコンダクタンスの測定では、そのエネルギーギャップ構造を初めて直接観測した。測定温度4.2KにてCeNiSnでエネルギーギャップ8-10meV、CeRhSbでは20-27meVが得られた。これらの値は近藤温度T_K(【square root】4K(CENiSn)96K(CeRhSb))と同程度かやや大きい。近藤半導体のフェルミ面近傍での準粒子状態密度の関数形は知られていないが、得られた実験データはギャップの確率分布(Gauss分布)を考慮したBCS状態密度曲線と殆ど一致していることを初めて見い出した。これはギャップが強い異方性を持つことを示唆している。トンネルスペクトルの温度変化の測定ではCeNiSnでは12K、CeRhSbでは25K付近以下でスペクトルに構造が現れ始めており、フェルミ面に部分的にギャップが開き始めていることを示している。これらは帯磁率がピークをとる温度T_χ及び電気抵抗が弱い肩を持つ温度と一致する。更に温度を下げて行くとCeNiSnでは6K、CeRhSbでは10K以下でギャップが急速に発達していることが明かになった。これらは磁気比熱の温度比C_m/Tがピークをとる温度T_<cp>に等しい。以上をまとめるとCeNiSn、CeRhSb共にギャップは温度上昇によりT_<cp>【planck's constant】.1T_K迄は急激に減少、T_C【planck's constant】.2T_K以上で消失し金属的に振る舞うと云える。この様なギャップの強い温度依存性は強相関物質の特徴と考えられる。
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