研究概要 |
最近、A15化合物等の強結合超伝導体で重い電子系物質との関連性が指摘され、重い電子系物質同様超伝導エネルギーギャップの異方性が議論されている。私たちはA15化合物V_3Siの超伝導の起源を探る為NMR法を用いて、エネルギーギャップ異方性を反映する物理量であるスピン-格子緩和時間T_1およびナイトシフトの測定を^<51>V核に対して12MHzおよび6MHzで行なっている。 T_C(17K)〜50Kの温度範囲では測定された1/(T_1T)が温度に依らず一定値をとり、50K〜300Kでは温度上昇とともに1/(T_1T)は急激に減少する。ナイトシフトにも対応した温度依存性が現われる。これらのデータを、フェルミ準位近傍にLorentzian型やGaussian型の狭い状態密度を持つ簡単なモデル計算と比較すると、フェルミ準位近傍に幅150K程度の狭い状態密度がある事が分かる。これはバンド計算より求められている幅の約1/3である。 一方、T_C以下では通常BCS超伝導体においてT_C直下で見られる1/T_1の増大が観測されず、またT_C/3からT_Cまでの温度範囲で1/T_1が温度Tの3乗に比例している。このT^3則は、超伝導エネルギーギャップが異方性を持ちフェルミ面の赤道上で消失している場合に見られると考えられている。さらに1.5Kまでの測定では温度低下とともに1/T_1はT^3則からずれ、T^3則から予想される値より大きくなっている。この原因として系のT_1が渦糸中心での速い緩和に引きずられて短くなるスピン拡散の機構が考えられるが、12MHz,6MHzの測定データに明確な相違が見られない為、現在のところその寄与は不明である。結局、1/T_1の振る舞いがBCS超伝導体とは異なる事は明らかになったが、残念ながらどのようなギャップ異方性があるのかを特定するには至っていない。 これらの結果をまとめた論文をJ.Phys.Soc.Jpn.に投稿し、vol.64に掲載決定している。今後の課題として、T_1評価のより容易な^<29>Si核の信号の測定や超伝導状態でのナイトシフト測定などを通してこの物質のエネルギーギャップ異方性についてさらに議論したいと考えている。
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