申請者は本助成をふまえ、^<13>Cを濃厚にしたBEDT-TTF分子の合成をおこない、^<13>C-NMR測定用の錯体を作成した。また、^<13>C-NMR測定系の整備および予備測定をおこなった。 本課題では、伝導電子密度の高い原子核での情報を選択的に得るため分子中央部の2個のみを置換した。合成はLarsen-Lenoirの方法をもとにしたが、既報のままでは反応の制御が難しく、場合によって収率が大きく下がることもあった。そこで安定して生成物を得るための改良を試みた。本研究課題に遅れが生じたのは、この改良を見いだすのに時間がかかったためである。しかしその結果、出発物質^<13>CS_22gから、BEDT-TTF分子0.8gを得ることができた。また、本研究で購入した低温恒温器を用いて徐々に温度を降下させていくことにより、良質で大きな単結晶試料が育成できることがわかった。^<13>C体についても順次試料育成を行っている。^<13>C-NMR測定系について、超伝導磁石の整備を行い、現在までに標準試料や他の^<13>C置換体のNMR信号を観測した。これにより、平成6年度中、あるいは遅くとも平成7年4-5月には^<13>C-BEDT-TTF系の本測定に入る予定である。まず常伝導相での電子相関に着目し、磁気的揺らぎの可能性を調べる。 ^<13>C-NMR測定では、末端のエチレン基の分子運動の影響を受けないので、広い温度範囲で伝導電子の情報を得ることができる。ナイト・シフト、Τ_1^<-1>の独立な測定からコリンガの係数を定められる。この絶対値は電子相関の大きさを見積もる上で重要であり、BEDT-TTF系の系統的な理解が可能である。これらBEDT-TTF導体で見られる強い電子相関と低次元性に起因すると思われるいくつかの未解決な現象について、微視的な観点から電子構造を調べていく。
|