研究概要 |
BEDT-TTF系の有機伝導体の極低温領域の比熱測定を、H=0〜8Tまでの磁場下で行った。有機化合物の場合、酸化物などの無機化合物と比較して、フォノンによる格子比熱の項が大きく効いてくるため、電子状態密度と関係する重要なパラメターである電子比熱係数の正確な決定には1K以下のデータが必要になる。しかし、この温度域では試料の熱容量が小さく、断熱法による測定が困難になる。昨年度の科研費補助金を用いて作成した断熱熱パルス型の^3He測定装置を微小試料用の測定法である熱緩和法と併用出来るように改良を加えた。さらに同様のシステムを希釈冷凍機に組み込み0.1Kまでの測定が可能となった。この装置を用いてα相(BEDT-TTF)_2MHg(SCN)_4系の一連の塩M=K,Rb,NH_4について測定を行った。その結果M=K,Rbについては、_γ=5mJ/molK^2,NH_4では29mJ/molK^2という結果を得た。前者の二つの塩では、約10K付近に金属相から別の異常金属相への転移があることが知られており、この低温異常相での電子状態密度は、高温相に比べて約1/2〜1/3程度に小さくなる事が解った。NH_4塩は1Kで超伝導転移を示すが、そのピークの形からかなり2次元性の強い超伝導体である事がうかがえる。このことは、1Kより上の温度領域では、低次元的な超伝導のエントロピーが残り、上記の_γが過大評価となっている可能性を示唆する。従って、_γの見積もりには強磁場をかけてこの成分を消し去る必要がある。温度計の磁場中較正を行い0T,2T,4T,8Tの磁場中比熱の測定を行った。この結果_γ値として約22mJ/molK^2という価を得る事ができ、また揺らぎの成分が1.4K付近まで広がっていることが明確に観測され、電気伝導度、磁化率の測定結果と矛盾なく理解できる。現在磁場依存性のデータを熱力学的に解析を加えているところである。
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