摩擦は、物理学上、非常に興味ある問題であり、古くから多くの研究がなされているが、その基本的な問題についてまだまだ明らかでない点が多い。さらに最近の技術の進歩により、新しい状況下での摩擦が研究され始めている。これらの基本的な問題や、新しい状況下での問題を理論的に明らかにすることを目的として、我々は摩擦の研究を行ってきた。そしてこれまでに定常状態の摩擦力の一般的な計算方法を明らかにし、それにより清浄表面の場合の摩擦を原子を古典的な粒子と見なすモデルの1次元版に基づいて研究し、その特異な振る舞いを明らかにした。本研究ではこれらの成果を基に清浄表面、及び乱れがあるときの摩擦のモデルを調べ、摩擦の3法則の成り立つ原因、適用範囲、範囲外での摩擦の振る舞いを明らかにすることを目的とした。原子的なスケールで乱れのない清浄表面の場合、上下の結晶の格子間隔の比が無理数の場合には、最大静摩擦力が0の状態があり得ることがわかっているが、そのような状態が乱れのある場合にも安定に存在しうるのか否かは不明であった。我々は、変分法、数値計算及び有限サイズスケーリング法を組み合わせた議論により、乱れがある場合には常に最大静摩擦力は有限になることを示した。通常の摩擦の問題では、その表面は原子的なスケールから見れば非常に乱れて凸凹しており、清浄表面とはほど遠い。この場合に、摩擦を起こすのは接触している2つの物質の凸同士の凝着と変形である。この凸の部分に注目し、乱れのある場合摩擦の有効モデルを構成した。そりてこのモデルに基づいても最大静摩擦力は常に有限になることがわかった。このモデルのダイナミクスおよび、3次元の清浄表面の摩擦のモデルの数値的研究は現在進行中である。
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