実験的に観測されているコロイド分散系の高密度凝縮状態におけるガラス相の安定要因を解明するため、湯川型ポテンシャルで相互作用する3次元粒子系のブラウン運動についての分子動力学シミュレーションを行った。初期に系を低密の液体状態に置き、急速に圧縮することによって不規則凝縮状態(ガラス状態)を生成した。この系を一定温度、一定密度に保ち、粒子配置における方向相関の時間変化を観測することにより、結晶核の生成までに要する誘導時間を種々の外的条件について調べ、ガラス状態の安定性における最も支配的な要因を探した。一連のシミュレーションの結果、粒子サイズの微小な多分散性がガラス状態における結晶核の生成を著しく遅らせ、わずか5〜8%程度の多分散性でも実験系で観測されている程度の長時間にわたる安定なガラス状態が実現できることが示された。さらに、実験から知られているコロイド・ガラスの相図(安定性ダイアグラム)を再現できることがわかった。さらにガラス状態における中間散乱関数(波数kを持つ密度揺らぎの時間相関関数)の緩和過程をしらべ、コロイド・ガラスの光散乱による実験データとほぼ対応する結果を得た。 これらの結果は、従来単分散と考えられてきた実験に用いられたコロイド系が、実は多分散コロイドと考えねばならないことを示唆しており、理論構築のための重要な情報を与えることになる。
|