本研究は、同多重度内遷移過程:Hg(^3P_1)+X→Hg(^3P_0)+X(X=N_2およびCO)の衝突過渡領域において二原分子の回転運動が遷移メカニズムに及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。第一段階として、ガスセル中でのHg-X衝突錯体の光吸収に続いて錯乱されるHg(^3P_0)およびHg(^3P_1)をレーザーポンプ・プローブ法を用いて観測し各々の生成量の絶対比の励起波長依存性を決定する実験を行った。これによって、無限遠でHg(^3P_1)+Xに相関をもつ衝突状態であるII性のA状態およびΣ性のB状態から、同じくHg(^3P_0)+Xへと相関をもつa状態への非断熱遷移メカニズムに関する幾つかの重要な知見を得ることができた。すなわち、(1)Hg-原子衝突において禁制であるA→a遷移が二原子分子の衝突軸回りの回転運動によって直接起こる、(2)B→a遷移は衝突平面内の二原子分子の回転運動によって著しく加速される、(3)これらの遷移確率はHg-X相互作用ポテンシャル平面の非等方性が強ければ強いほど高くなる。そこで次に交差分子線方を用いて、二原子分子の回転温度がセル実験の場合よりも遥かに低い状態で衝突した際のA→aおよびB→a遷移の確率と散乱後のN_2およびCOの回転分布を明らかにする実験を試みた。衝突状態の選択は、ポンプレーザーの偏光方向を衝突軸に対して平行あるいは垂直に設定することによって行った。N_2およびCOの回転励起状態の検出はレーザー誘起蛍光法およびレーザー多光子イオン化法を用いて行った。しかしながら、真空チャンバーの排気能力が不十分であった為に水銀蒸気および二原分子の噴出量が低いレベルに制限されてしまい、ポンプレーザーの偏光方向に対する信号強度の依存性を観測し得るようなS/N比およびS/B比を達成するまでに至らなかった。そこで、分子線(原子線)噴出部分に差動排気を施した、より高真空で動差し得る新たな交差分子線装置を設計した。現在、製作中の段階である。
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