研究概要 |
本研究は、非常に強いレーザー光の電界によって原子の構造を制御し、反転分布を形成することの可能性を計算機シミュレーションによって明らかにすることを目的として行われた。超短パルス高強度レーザー光を媒質に照射し、原子内の電界と同程度の大きさの電界を原子に印加すると、トンネル効果により原子が電離されることが光電界電離効果(OFI)として知られている。このとき、シュタルク効果により、方位量子数1が0より大きくそのレーザー電界方向への射影mが大きい準位にある電子のイオン化エネルギーは、レーザーの電界の大きさに比例して増加し電離がより起こりにくくなることが期待される。すなわち、光電界電離では電界のない状態でより低いエネルギーを持つ準位を選択的に電離できる可能性があるのではないかと考え、シミュレーションによる検討を行った。 1およびmに依存する光電界電離速度は、Ammonsovら(Ammonsov et al.,Sov.Phys.JETP64,1191(1986))により与えられているので、はじめに、これを用いLi様Alの各準位の電離速度を調べたところ、レーザー光強度が3x10^<19>W/cm^2以上でn=2の電子の電離速度がn=3より大きくなることが分かったが、電離速度は10^<18>1/s以上と非常に大きく、現実的なレーザー光の電界の立ち上がり時間内では反転分布を生成し得なかった。 次にKrイオンの3s-3pおよび3d-3p準位間における反転分布生成の可能性について調べた。光電界電離過程を平均イオンモデルに基づく原子過程モデルに組みこみ、各n,1準位の電子数の時間発展を計算したところ、レーザー強度が5x10^<18>W/cm^2から1x10^<19>W/cm^2、パルス幅100fsのレーザー光を照射した場合、n=3で1,mが異なる各電子の電離速度の差が顕著に現われた。電離によるレーザー光の伝播への悪影響を避けることを考慮しKrの初期密度を10^<18>1/cm^3程度とした場合、生成する反転分布量は10^<16>1/cm^3、軟X線利得11/cm程度、持続時間10psと見積られ、観測可能な反転分布が生成する可能性のあることが分った。
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