報告者は、コウジカビの培養実験で、栄養と培地の寒天(培地硬度を調節)濃度とを変量としたコロニー形態の相図を得た。平成6年度は、コロニーの環境変化に適応した積極的な戦略性の発揮に関する研究を行った。第1に、成長に伴う培地環境変化を捉えるため、低栄養培地上に定点添加した胞子の発芽率を調べた。この結果、コロニー近傍の空間が成長による栄養減少・老廃物蓄積に伴ない成長阻害的になること、胞子が沈潜する培地硬度では発芽率が顕著に低下し、基質中への沈潜が成長抑制をもたすことが確認された。第2にコロニー樹状化(成長部位の局在化)を理解するため、栄養消費しながら並行して1次元成長する部分コロニーの2次元集団系での、栄養総量と成長阻害的コロニー相互作用の強さとを変数とした確率成長モデルを考案した。これにより、高栄養では均一な全体形態、低栄養・高阻害では栄養消費とともに相互作用の効果が顕著となりコロニーが間引かれる競合形態、さらに低栄養では完全に間引かれた形態と、3種の形態相が出現することが分かり、フラクタル的樹状化は第2の競合成長相に対応することが観察された。第3に、栄養と培地硬度の2量を従来より細かく変えて培養し、広範囲での樹状化を調べることにより、一定期間均一コロニー相が形成され、その後栄養総量の減少と共に界面で菌糸密度が高まり樹状相が出現する特徴を見出した。この2相から菌糸を分離培養したコロニーには異なる形態的特徴が再現され、さらに樹状化相では形態の異なる集団がしばしが発生する。これらは環境劣化の下での菌糸の潜在的多型性の噴出を意味し、環境への積極的な対応として捉えられた。培地を100%重水で作成し、菌糸の生理的活動を抑制すると樹状化相の誘発が抑えられることが見出された。以上の他、顕微鏡下での継続培養観察のシステムを確立し計測中であり、寒天培地上のコロニーのバイオマスの測定法の試行錯誤はなお継続中である。
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