溶解セルロースの分子構造の解析について、本年度はまず溶解の原因の解明をすることを第1の目標としていた。さらに、溶解セルロースの分子の状態について手がかりとなるデータの集積を行うことを考えた。 1.セルロースの溶解原因の検討 セルロース多系のうちIV型のみが溶解することが確認されていたが、溶解・非溶解の原因についてX線広角・小角散乱、13C-NMRスペクトル、IRスペクトルを用いて検討を行った。その結果、セルロースの結晶構造に生じたわずかな歪が格子エネルギーの低下を生み出して、セルロースの溶解・非溶解の原因となっているのではないかと考えられた。 2.溶解セルロースの構造解析 セルロースの溶解過程を、偏光顕微鏡によって試料の状態を確認しながら、X線及び光散乱という波長域が大きく異なる2つのプローブを用いて検討を行った。分子が結晶構造を維持している状態では、既存のX線広角及び小角散乱を用いて、また分子が溶解を開始した状態ではX線小角を用いて実験を行った。更に溶解した分子の状態では分子の形状・大きさ等の検討が求められるため、X線装置より長い波長域で実験が可能な光散乱による測定を行った。そこで本年度新たに購入したレーザー装置・CCDカメラ・データ集積ボード等を光散乱測定装置として組み立てて実験を行った。年度の前半は主に装置が順調に作動することを確認するための実験を行っていたが、現在はセルロースの溶解溶液の光散乱測定を順調に行っているところである。
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