研究概要 |
南極中層水(AAIW)の大西洋赤道域における流動と混合の解明を目指して,南大西洋ベンチレーション実験観測(略称SAVE,1987-1989年実施)等で得られた高精度・高解像度のCTDおよび採水による断面観測資料を解析し,以下の知見を得た.(1)既存の各層観測資料の解析から,AAIWを特徴づける塩分の鉛直極小が大西洋赤道域ではほぼ27.3σ_θの密度面に対応するとされてきた.これを高解像度の資料により確認した.(2)27.3σ_θ面上の海水特性のマップを作成し,AAIWの低塩分舌が西岸から3°-4°Sに沿って東にのび東岸近くまで達していることを示した.この低塩分舌は高酸素舌にも対応していた.栄養塩を含むこれらの海水特性の東西変化の特徴とあわせて,この低塩分舌は西岸に沿って赤道域に運ばれてきたAAIWが赤道のすぐ南を東向きに運ばれているものと結論した.(3)1°-2°Nに沿った比較的弱い低塩分舌が,西岸から東にのびていることがわかった.海水特性の南北・東西分布の詳細な検討から,この低塩分舌は西岸に沿って赤道を越えて北半球に進入したAAIWが東向きに運ばれているものと結論した.(4)上述(2)および(3)の低塩分舌にはさまれた赤道近傍の海域(2°N-2°S)では,AAIWの海水特性が鉛直的かつ水平的に一様になっていることを明らかにし,赤道から傾圧ロスビー変形半径程度の距離の海域で強い鉛直・水平混合が生じていることを示唆した.(5)上述(4)の海域ではAAIWの塩分に明確な東西変化は見られなかった.この結果と(4)より,赤道直上のAAIWの流れは,a)西向流,b)赤道のすぐ北および南より遅い東向流,あるいは,c)強い鉛直混合を伴う東向流のいずれかであることが推察された.
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