既存の対流圏2次元大気モデルの鉛直領域を成層圏まで拡張し、次の2種類の視点で数値実験を行なった。 1.不連続な鉛直温度勾配をもつ大気中での地形性重力波の鉛直伝播特性 温度の鉛直勾配を対流圏界面高度10kmを境に現実的に変化させた。温度勾配の不連続性の効果のみを調べるため、背景風を鉛直方向と一定にした。山はベル型の孤立峰とした。その結果、温度の鉛直勾配が一定の対流圏モデルには現れない、風下側の波とは明らかに長い水平波長を持つ波構造が成層圏風上側に現れた。これまで、地形性重力波の鉛直伝播の水平波長依存性は、亜熱帯西風ジェットに対応する風の鉛直構造が主に議論されていたが、この結果は、温度勾配の不連続面での地形性重力波の反射や透過をきちんと評価する必要があることを示唆している。 2.現実的な温度、風構造のなかでの地形性重力波の鉛直伝播特性 これまでに行なってきた京都大学MUレーダー、ラジオゾンデ観測により得た典型的な水平風・温度の鉛直プロファイルを、簡単な関数形で近似し、数値モデルに組み入れた。風下側には鉛直方向に1つ節を持ち、対流圏トラップされた波構造が現れた。この様相は、MUレーダー観測データに現れた山岳波と考えられる鉛直風擾乱の節構造(Sato 1990)と一致する。成層圏にはやはり観測結果と対応の良い孤立峰の半値全幅の50倍以上の長い水平波長を持つ単色的な波が現れた。 今後は、これらの結果をスペクトル法・フィルター法などで解析し定量化する。また、成層圏領域では密度減少に対応し波の振幅が指数関数的に増大するため、通常のスポンジ層では反射が押えられず、長時間安定に走らせられなかった。そこで、この反射を押える工夫し、移動性高低気圧波動の通過などを念頭においた、非定常な背景風のなかで地形性重力波の発生、伝播などを詳しく調べる計画である。
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