研究概要 |
本研究では各地に持続的な異常気象をもたらすブロッキング高気圧の力学を理解するために,北半球中高緯度で過去30年間に観測されたブロッキング現象を,各地点毎に先ず寒候期について,強い方から15例ずつ抽出して合成図解析を施し,その形成・消滅の気候を調査した.1965年以来毎日2回,米国気象局で作成された北半球対流圏循環データが用いられた.その結果,寒候期大陸上に現れる強いブロッキングは,その西側からの定常ロスビー波の伝播が妨げられ,局所的に波のエネルギーが蓄積される結果形成される事,また,非線型力学がその蓄積されたエネルギーを解放して衰退する事など全く新しい知見が得られた.この伝播阻害は,欧州などプラネタリー波の存在で西風ジェットが分流し易くなっている所で起こる傾向にある.対照的に,大洋上で起こるブロッキングは西側からのロスビー波の伝播の影響が殆ど見られず,寧ろこれらの地域で活発な移動性高低気圧からのフィードバックにより発達することが確認された。 一方,極東に冷夏をもたらすオホーツク海高気圧の発達の機構を解明するため,5,6,7の各月において,強い方からの15例ずつに基づき合成図解析を行った.その結果5月と7月では,地表に寒冷高気圧を発達させる上層のブロッキングの時間発展に本質的な差異が確認された.即ち,5月は基本的に寒候期と同様で,活発な移動性高低気圧からのフィードバックで北太平洋中部に形成された気圧の峰が徐々に西に展開してオホーツク海上空へ達する。一方,七月には欧州上で発達した峰から伝播してきたロスビー波が,ジェットが予め分流している極東上空で伝播阻害をおこし,ブロッキングが発達する. 以上の結果は,ブロッキング形成に大気の長周期変動の力学が重要という基本的理解を深めたのみならず,地球流体力学の理論研究の発展にも寄与するところが大きい.
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