研究概要 |
本研究の課題は,第四紀の汎世界的な気候変動(氷期・間氷期サイクル)とそれに伴う氷河性海水準変動が,浅海の環境と生物にどのような影響を与えたかを解明することである.筆者のこれまでの研究により,大桑層の模式露頭(石川県金沢市犀川河床)において,140万年前から80万年前までの間に起きた氷河性海水準変動による堆積シーケンスと貝化石群集の周期的変遷が明らかにされている.だが,これらの記録からは,1地点における環境・生物の時間的変化しか解読できない.そこで,本研究では大桑層の模式露頭の沖合いとより沿岸に堆積した大桑層の岩相・貝化石の層位分布を精査した. その結果,氷期については水深20-30mから50-60m,間氷期については水深20-30mから100-120mまでの堆積物と貝化石の深度分布を解明できた。氷期には,水深の増加とともに堆積物は細粒化し,貝化石群集はPeronidia群集,Felniella群集,Clinocardium-Turritella群集(これらはいずれも寒流系上部浅海帯群集に分類される)の順に変化する.一方,間氷期の堆積物は,沖合いに向かって水深50-60mまでは細粒化するがそれを超えると粗粒化し,そして水深100-120mを超すと再び細粒化傾向に転じる.また,貝化石群集は,暖流系上部浅海帯群集,暖流系下部浅海帯群集,寒暖混合群集の生息深度は約100m以深と推定される.現在の日本海では,寒暖混合群集は対馬海流と日本海固有水に挟まれた中間水に生息し,その深さは140m以深である.よって,寒暖混合群集の生息深度の差は,100万年前の間氷期の対馬海流の厚さが現在のそれの約2/3であったことを示唆する.以上が本研究で得た新知見であるが,特に対馬海流の流入量が現在と過去では異なるという知見は重要である.
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