スカファイテス科は、幼殻のうちは正常な巻を示し、成年殻に達したときにはじめて巻が解け鈎状の螺環を形成して成長を終えるため、殻の外形から容易に成年殻と未成年殻の区別がつくという特長をもっている。またマクロコンク(従来のScaphites属)とミクロコンク(従来のOtoscaphites属)のペア-が認識されており、性的二型現象を示しているものと考えられている。特に極東地域では、チューロニアン階からコニアシアン階にかけて繁栄し、しばしば単一のノジュール内に数百の個体が排他的に密集して産する傾向がある。 本研究では、北海道、中・上部蝦夷層群より産したスカファイテス科アンモナイトの12個の化石個体群(計約1800個体)について、サイズ分布、成長パターン、成長を通じての性比の変化、推定されるライフスパンの長さ、推定される卵の大きさを、およびこれらの特徴の時間的空間的変化を解析した。その結果、環境の変化に対するスカファイテス科各種の生活し戦略に関して以下の事が明らかになった。1)従来から推定されていたように、本科のマクロコンク(従来のScaphites属)とミクロコンク(従来のOtoscaphites属)は性的二型である可能性がきわめて強い、2)砂底に棲む種群と泥底に棲む種群では、採用している生活史戦略に明瞭な差が認められ、前者は後者に比べて、成熟に達したときのマイクロコンクの比率が高く、ライフスパンが短く、卵の大きさが小さいという特徴を有している。3)成長パターンの解析の結果、これらの形態変化およびこれに起因する個体群動態の変化は、個体発生の異時性(hetero-chrony)によってもたらされていることが強く示唆される。
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