本研究の目的は西太平洋海域で採取されたピストンコア試料を用いて過去約20万年間の氷期一間氷期間における炭酸塩溶解の程度の変化を明らかにすることである。本研究では深海堆積物中の炭酸塩の溶解の程度を評価するために申請者が考案した石灰質ナノプランクトンCalcidiscus leptoporusを用いた方法を使用した。この方法は他の方法に比べて単一種を用いているため溶解以外の環境変化の影響を受けにくいことと、何よりも試料と時間と費用が節約できる点で優れている。 本年度の研究はこれまで約5年間かけて採取したコア試料の整理および炭酸塩溶解の補足的な測定を行なった。特に炭酸塩溶解の研究に欠かすことができない炭酸塩含有量の測定に多くの時間をさいた。酸素同位体比については若干の未測定試料が残ったが、それ以外のデータについてはほぼまとめることができた。その結果北西太平洋における炭酸塩の溶解は約18万年前と8万年前、つまり間氷期から氷期への遷移期に極大を迎え約10万年周期で変化していることが明らかになった。炭酸塩含有量と炭酸塩の溶解についてはその変化が一致する場合も全く異なる場合もあることが明らかになった。このことは炭酸塩含有量を溶解の指標として用いるのは危険であることを示している。 また今年度の後半には南極海で同様の研究を行なうための試料採取を行ない、十分な試料を手にいれることができた。この試料は本研究の北西太平洋および赤道大西洋の結果と対比し、汎地球的な環境変動を考えて行くために今後使用する予定である。
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