従来から天然の長石が少量のMgを含むことは知られていたが、多くの場合、それらは不純物起源であった。申請者は今までに、MgがCaMgSi_3O_8端成分として長石構造に存在することを示すと同時に、この端成分が灰長石に固溶されるためには1000℃以上の高温と、それからの急冷を経なければならないことを解明した。このことは火山岩から産する灰長石巨晶のCaMgSi_3O_8端成分の挙動が、マグマの温度、化学組成、噴火の際の火道内部でのマグマの上昇速度と密接に結び付いていることを示唆している。 今回はこれらの確認のため、火山岩及び深成岩起源の灰長石中Mg量のEPMAによる正確な測定を行い、灰長石のMg固溶量と温度等の生成環境及び結晶組成(An%)との関連を研究した。火山岩起源の灰長石試料は、北海道の倶多楽とフゴッペ、秋田の駒ケ岳、荷葉岳、焼山、岩手の岩手山、東京の三宅島と八丈島から採取し、深成岩起源の試料として丹沢山地の班れい岩産の斜長石を使用した。また、曹長石成分(Ab)とMg固溶量の関連を調べるため、チリの火山岩産の斜長石の分析も行った。この結果、火山岩起源の灰長石に含まれるMg量はすべてMgO換算で0.5から1.0wt.%の範囲に集中しており、深成岩起源である丹沢産のものは、灰長石成分が95%を占める(An95)中心部分で0.8の値を示すものの、周辺部では灰長石成分が高くても(An81)Mg成分は全く含まれていなかった。これにより、火山岩や深成岩マグマの初期段階で生成した高温起源の灰長石のみがMg成分を固溶できるということを再確認すると同時に、深成岩形成末期の冷却化が進んだ状態で生成したと考えられる部分では、たとえ灰長石成分が高くてもMgを固溶出来ないことが解明された。また、チリの産の斜長石(An50)がMg成分を含まないことは、高温で生成しても斜長石中のAn成分が少なければMgを固溶出来ないことを示しており、Ab組成に富む斜長石からのMg成分固溶の報告が少ないこととも調和する。
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