研究概要 |
黒鉱鉱床の成因の解明において,基礎的情報が不足していた黒鉱胚胎泥岩について,北鹿地域の籠谷層など各地域より採取した泥岩試料を対象に,基本的記載,重金属の存在量や存在様式(特に有機物との関係)の解明,生物地球化学的環境解析(イオウ同位体比分析など)を行い,これらの情報に基づいて,生成場の環境のモデル化を行った。 特記される結果として,黒鉱胚胎泥岩の中に,(1)黄鉄鉱ノジュール,(2)重金属元素が認められるものが見出されたことがあげられよう。(1)黄鉄鉱ノジュールは,泥岩中に不規則に見出される場合,特定の層準に配列して産する場合がある。ノジュールは数mmから数cmの偏平楕円体を呈し,中には長径が10cmに達するものも見出される。顕微鏡下では,コロフォルム様組織,アットル様組織やそれらの粗粒化再結晶組織を示し,黒鉱中の獅子の目に見出される黄鉄鉱の組織と類似している。一部に微化石のレリックを含むものも見られることから,これらの黄鉄鉱ノジュールの一部はバクテリアによる硫酸塩の還元により生成したものと考えられる。ノジュールの周囲にはフランボイダル黄鉄鉱が散在しており,このイオウ同位体比は,-30〜-40‰でバクテリアによる硫酸塩還元に特徴的な値を示している。(2)含重金属泥質岩は,黄鉄鉱の他に,有孔虫化石を充填する産状の閃亜鉛鉱,黄銅鉱が見出れさる。このことは,これらの閃亜鉛鉱,黄銅鉱は,黒鉱の再堆積によりもたらされたものではなく,むしろ泥質岩中で何らかの微生物が関与する生物地球化学的過程を経て固定されたことを示している。黒鉱胚胎泥岩において,このような生物地球化学的過程を経た重金属元素の固定があったことは,黒鉱鉱床本体についても,同様のプロセスを含めた成因モデルを検討すべきことを意味しているといえよう。 これらのデータをもとに今回行ったモデル構築では,これらの泥岩は,陸源性砕屑物,火山性砕屑物双方の供給の乏しい比較的循環の悪いよどんだ還元的な環境における形成が示唆された。今後は,重金属の濃集の場の特性,時代の特性,メカニズムなどを解明すべく,地域や対象時代を広げて,記載を充実させていきたいと考えている。
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