本研究は南部アフリカ・リンポポ帯北縁部の変成作用における酸化還元状態を決定し、変成作用に関与した流体組成を推定することを目的とした。リンポポ帯は世界最古の高度変成帯(グラニュライト帯)であり、初期地球の地殻(特に下部地殻)形成プロセスを解明する上で重要な変成帯である。初期の高度変成帯にはチャノッカイト(斜方輝石を含む花崗岩質片麻岩)が存在し、初期地球とそれ以降の時代との違いを明らかにする大きな鍵を握っていると思われる。流体組成の推定には、安定な鉱物組合わせの選定など問題点があるため、本研究では岩石中の酸素分圧を決定し、変成作用における酸化還元状態を明らかにした。 補助金によって購入したパソコン及びメモリーを用い、酸素分圧計算のためコンピュータープログラムを作成した。このプログラムにより化学分析によって得られた分析データを保存し、これらを用いて酸素分圧をルーチンで迅速に計算することが可能となった。このプログラムにより磁鉄鉱-チタン鉄鉱組合せおよび磁鉄鉱-斜方輝石-石英組合せの両方から酸素分圧を求めることができる。 分析および計算の結果、チャノッカイトの酸素分圧は高く(QFMバッファー以上)酸化的条件を示し、斜方輝石を含まない岩石はやや還元的である。一方、ペグマタイト的チャノッカイト(おそらく脱水溶融で形成されたメルトの固結物)はさらに還元的であり、グラファイトの安定領域付近にある。しかしこの岩石にはグラファイトが見られないため、多量のCO_2が存在した証拠はない。つまりCO_2の浸透によるモデル以外のプロセスによってリンポポ帯北縁部のチャノッカイトは形成されたと考えるべきであろう。
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